【プロが解説】EC物流とは?仕組みや課題、EC物流の改善ポイントを徹底解説
はじめに
現場で指示を出すストレージプランナー
EC物流は、ECサイトの円滑な商取引を支えるバックヤードとしての重要な役割があります。物流現場では、たくさんの人たちがさまざまなシステムを連携させることで、商品を顧客の手元に直接届けるEC物流ならではの仕組みを構築しているのです。
新型コロナウイルスが蔓延し、EC物流の拡大と必要性は今後も高まることが期待されています。本記事では、「これからEC物流の課題に取り組みたい」という企業向けに3つの改善ポイントを解説します。
【EC物流とは】
EC物流は、EC事業を運営する会社の物流システムを指します。ECはelectronic commerceの略、日本語では「電子商取引」のECサイトのことです。一般的に物流とは、商品が倉庫から顧客の自宅に届くまでの一連の流れを指します。ECサイト運営者が商品の入荷から出荷・配達までのプロセスを総じてEC物流と呼びます。
では、EC物流はどのような仕組みで商品が顧客の手元にまで届くのでしょうか。ECで有名な大手通販Amazon(アマゾン)を例に上げると、AmazonがECサイト運営者・EC事業者で注文・購入者が一般の消費者となります。
まずはAmazonサイトにて書籍を購入し、代金を支払います。その後、Amazonは受注後、倉庫から商品をピッキングし、検品や包装・箱詰めを行って宅配業者に引き渡します。出荷後は、佐川急便やヤマト運輸など契約している宅配業者が自宅まで届けます。商品が未達の場合や出荷ミスなどのトラブルが生じた場合は、ECサイト運営者(このケースではAmazon)が対応します。
日本にはAmazonだけでなく、たくさんのECサイト運営者が存在します。大手の楽天、ヤフーショッピングやその他のECサイトなどです。それらは、独自のEC物流を構築し、効率的な顧客対応や出荷販売の各種サービスを展開しています。
EC物流の特徴
ネット通販の拡大に伴い、EC物流は従来の店舗向け物流とは大きく異なる特性を持つようになりました。ここでは、EC物流ならではの代表的な特徴を5つに整理してご紹介します。
① 個口注文が多く、配送先が多岐にわたる
EC物流は、個人向けのBtoCと企業間取引のBtoBに分けられます。実店舗向けの物流(BtoB)は、販売計画や仕入れ計画に基づいて一定の数量をまとめて出荷するため、事前に予定を立てやすいのが特徴です。
一方、EC(BtoC)は配送先が膨大に広がり、1件あたりの出荷量は少なく、予定出荷数を読みづらいという難しさがあります。さらに、楽天スーパーセールや新商品の発売、連休明けなどのイベントによって注文が集中し、出荷数が急増する波動要因が加わります。
② ラッピング梱包や同梱物など、個別対応が頻繁にある
EC販売では、商品が届き箱を開ける瞬間が、顧客にとって最初のリアルな購入体験になります。丁寧に整えられた梱包やギフトラッピング、心のこもったメッセージカーは物流の価値を高めることになるでしょう。それは単なる商品配送ではなく、ブランドを体感させる大切な場面となります。熨斗や緩衝材、包装資材の選定もブランドイメージに直結します。さらに、購入回数に応じて同梱物を変える施策(例:初回購入時はメッセージカードを同梱)は、1to1マーケティングとして機能し、ECモールでの評価にもつながります。
③ リードタイムが短く、当日出荷が求められる
EC利用者は「できるだけ早く商品を手に入れたい」と考える傾向が強く、当日出荷対応は必須です。しかし、大型セールでは注文が集中し、直前のキャンセルや同梱依頼が頻発します。迅速かつ正確な出荷ができないと、類似商品を他のECサイトで購入されてしまい、結果としてキャンセルを増やす要因になってしまいます。
そのため、大量注文が入っても滞りなく出荷できる体制を整えることが、EC物流における重要なポイントとなります。
④ 返品対応が発生しやすい
ECでは実物を確認できないため、返品・交換の発生率は実店舗より高くなります。特にアパレルでは、サイズ感や生地の質感といった実物でしか判断できない要素があり、返品率が高くなりがちです。さらに、返品される商品は必ずしも綺麗な状態とは限らず、タグが外れていたり、使用感がある状態で戻るケースも少なくありません。そのため、検品や再販可否の判断に労力がかかる点が特徴的です。
⑤ 出荷ミスや遅延が直接クレームにつながる
従来のBtoB取引では、販売先がクッションとなり、出荷ミスや遅延がエンドユーザーに直接届かないこともありました。しかし、ECでは出荷ミスや配送の遅れ、梱包不備がそのまま顧客からのクレームにつながります。さらに、SNSやモールのレビューに書き込まれることで、ブランドイメージに大きな影響を及ぼすリスクもあります。
EC市場規模は年々拡大している
近年、日本のEC市場は着実な成長を続け、実店舗を含む商取引構造の中で存在感を強めています。例えば、経済産業省が公表した「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年のBtoC-EC(消費者向けEC)市場規模は約26.1兆円に達し、前年の24.8兆円から前年比+5.1%の拡大となりました。EC化率も9.78%と前年より0.4ポイント上昇し、引き続き拡大傾向が見られます。
一方、BtoB-EC(企業間取引型EC)も急速に拡大しており、2024年には514兆4,069億円となり、前年比10.6%の成長を記録しました。BtoB-ECのEC化率も43.1%に達し、前年から3.1ポイント上昇しています。これは、発注・請求システムやEDIなどを通じた商取引の電子化が広範に進んでいることを示しています。
また、2024年の世界のEC化率は20.1%と推計されており、日本市場も引き続き成長が見込まれます。
物流を裏付ける指標として宅配便の取扱実績を見ると、国土交通省「令和6年度宅配便等取扱実績」によれば、2024年度の取扱個数は約50億3,147万個で、前年(約50億733万個)から0.5%増にとどまりました。すでに高い水準に達していることを踏まえると、数量面での急拡大は落ち着きを見せつつあります。
しかし一方で、EC市場の拡大と競争の激化に伴い、顧客はよりきめ細かいサービスを求めるようになっています。ギフト対応や梱包の工夫、多頻度・小口配送といった要望は今後さらに増えると考えられ、数量が頭打ちでも物流現場の質的な負荷は一層強まっていくと想定されます。
商品入荷から出荷までの流れ
ECサイトで販売する商品は、製造業者や卸売業者から商品を入荷します。そのため、EC物流の場合は、入荷から検品・保管までを(1)~(2)、ピッキング・出荷検品から出荷までを(3)~(5)の二段階にわけて行われます。
(1)入荷・検品
ECサイトで商品を販売するためには、まずサイトの取扱いテーマやジャンルに合わせた商品を入荷する必要があります。EC販売ではアパレルや化粧品など多品種かつ小ロットの商材を扱うことが多いため、倉庫管理が複雑化しています。特に入荷時はケース数の間違いや棚入れミスなどデジタル管理の及ばないアナログ作業が発生しやすいため、最も注意が必要です。
また、入荷を実施する前に、検品を行うことで商品に問題がないかをチェックします。検品は伝票と納品された商品の数量を確認する数量検品がメインとなりますが、商品の破損や汚れ、異物混入等の確認を行う不良検品、電子機器などが正常通りに作動するか確かめる作動検品などがあります。その際、検品業務に合わせてカスタマイズされたWMSによるシステム管理を徹底することで、検品の精度と生産性の両立を実現することが可能となります。
(2)保管
検品後、入荷した商品を決められたロケーションに保管します。保管過程では、特定の範囲内での温度管理や賞味期限管理など、商品毎に最適な保管環境の徹底が求められます。扱う商材の大きさ、種類、SKUの多さ、返品の頻度等に応じたロケーション管理を徹底していない場合、保管効率や作業効率に大きな影響が出ますので注意してください。
(3)ピッキング・出荷検品
注文があるとその出荷指示が倉庫現場に送られ、出荷作業が始まります。iPadなどを使用し、ペーパレスでデータ管理を徹底している物流企業もあります。
作業員は注文のあった商品を出荷指示書(ピッキングリスト)をもとに倉庫内の所定のロケーションからピッキングし、出荷検品作業を行います。出荷検品作業は、出荷先別に仕分けられた商品の配送先や品番、数量などが、出荷指示通りにピッキングされたかどうかを確認するものです。
(4)梱包
梱包作業では、商品の中身や大きさなどを考慮した段ボールや緩衝材を用意する必要があります。また、足元では運送費用が高止まりしており、最も合理的な段ボールサイズに合わせて梱包作業を徹底することで、運賃費用を圧縮することが可能になります。
梱包の際、顧客からの要望に応じて加工作業が発生します。加工業務として頻度が高い多いものとして、チラシやノベルティなどの封入作業やギフトラッピングなどがあります。
(5)出荷
梱包が完了した商品を注文者ごとに発送先を登録し、佐川急便やヤマトなどの配送業者に引き渡します。アマゾンや楽天など即日出荷が求められるEC物流において、商品を運送会社の集荷時間までに完璧に処理することは簡単ではありません。
EC市場の拡大によって、物流企業が小ロット・多品種・多頻度・即時対応に迫られたことで、出荷ミスや出荷遅延が少なからず発生しています。
【EC物流の課題と改善ポイント】
EC物流は人員やコスト、作業負担などの理由からさまざまな課題が挙げられます。そこで課題を明確にし、その改善ポイントについて解説します。
課題1.作業ミスの発生
EC物流の各工程(保管・ピッキング・検品・出荷)におけるミスは、売上に大きく影響します。例えば、ミスが多くて返品が増え、返品対応に人的リソースを奪われる、返品の費用負担が増加するなど、事業運営にとって見逃せない課題です。
特にヒューマンエラーの絡んだミスは、個人で防ぐことは難しくマニュアルやシステムなどで組織的に仕組化することが求められます。特にミスが起こりやすいのは、倉庫作業のピッキング・検品ミスです。倉庫現場によっては、特定の人員だけが保管場所を認識しているなど属人化や専任化が作業効率を低下させる原因となります。
作業ミス発生の改善ポイント
作業ミスの課題解決には、「1.作業ミスそのものが起きないような環境を作り出すこと」です。そして、ミスが発生する要因を解消する手段として「2.属人化の防止」です。
まず、人的努力だけで作業ミスを完全に防げるわけではないことを経営者など上層部は理解する必要があります。倉庫管理システムの導入や人の手を介在しないチェック作業を追加することで作業ミスを減らすことができます。
逆に、作業ミスを減らそうとして、確認作業者を複数人に増加させると、余計に作業が複雑化してミスを誘発します。しかしながら、このように人的ミスを人海戦術でカバーしようとして失敗するケースもあるのです。
WMS(倉庫管理システム)を導入することは同時に2つ目の属人化を防ぐ方法にもなりえます。WMSを使い、バーコードをスキャンし、システムが指示する通りに、予め決められたロケーションに所定の商品を取りに行くだけという手順が理想的です。
属人化は、熟練した特定の作業者に保管方法やピッキングが一任されてしまうために起こる弊害です。これを解消するには、一定のルールを守りさえすれば新人からベテランまですべての人員が作業を正しく行える仕組みづくりをすることが重要です。
システム導入はそれを効率的に行えるのです。もちろん、商品管理の整理整頓術や色分けなど視覚情報を用いたミスの低下など、倉庫内で行える対策を活用すると防止効果はさらに高まります。
課題2.人手不足
次に、必要な作業者数や労働力に対し、キャパシティが超過してしまうことです。よくあるケースでは、EC販売が軌道に乗り受注量が大幅に増加することで従来の人的リソースでは倉庫内の入出荷作業に対応できなくなるなどです。
人手不足が深刻な問題である理由は、①出荷遅延や出荷ミスが発生することで、エンドユーザーからのキャンセルが発生し、売上が低下すること、②入荷や返品商材の棚入れ業務が後回しになることで、新商品や売れ筋商品の販売機会が低下すること③サービスのクオリティが落ちてしまうことでブランドイメージが著しく棄損することです。
単純に人手を増やすにしても派遣費用や残業代など人的コストが大幅に増加することが懸念されるため、「人が足りないなら増やせば良い」という発想では解決しない点でしょう。
人手不足の改善ポイント
EC物流の人手不足を解決するには、「1.業務を単純化・標準化すること」、そして「2.多能工化を進め、1人が複数の業務を行えるようにしておくこと」によって業務の波動があった際の人手不足のリスクを軽減することが可能です。
まずは、現在の物流業務を単純化・標準化することで業務の属人化・専任化が進まないようにします。例えば、課題1.の作業ミスで紹介したWMSを導入することで、従来は人間が実施していた複雑な確認作業などを、システムを介在させることで単純な機械処理に変えてしまうことが可能となります。
さらに、業務マニュアルや職能管理表を作成し、運用することで、作業者全員が複数業務を行えるようになり、繁忙期においても物流品質が維持されるとともに、残業代など人件費の圧縮にも繋がります。
このように、倉庫管理システムや個別企業毎の業務マニュアル作成等においては高い物流ノウハウが必要となります。アウトソーシングを利用するのか、コア業務の一環として自社物流で運用するのか、経営戦略と置かれた状況に応じてベストな選択をしましょう。
課題3.コストの増加
3つ目の課題は中小から大手までが抱えるコストの問題です。売上が伸びても利益が上がらないというEC事業者は少なくないでしょう。その原因の1つには、EC事業のコスト増加が挙げられます。
EC物流のコストは、運送費用に加え、人件費、倉庫の保管費用、システム運用費などです。最近では、運送業界の人手不足と再配達問題などから、運送コストが非常に高止まりしています。また、建築費用の上昇による保管費用の増加、働き方改革と最低賃金上昇による人件費の上昇とあらゆる角度から物流コストは増加傾向にあります。
このように物流コストが上昇することで、EC販売で稼いだ利益が相殺されてしまい、売上が上昇しても微々たる利益しか手元に残らず、途方にくれる経営者やEC担当者が少なくありません。
コスト増加の改善ポイント
コストの増加を解決するためには、EC物流の人員や作業にかかる費用を抑える施策が必要です。解決法は、倉庫管理システムの導入とマニュアル運用を徹底することにより、正社員ではなく、アルバイトスタッフで業務の大部分を賄える体制を整えることです。
これにより、人件費の絶対額が大幅に圧縮されるとともに、業務内容に合わせて変動費化することが可能となります。また、業種や業態特有の入出荷ルールやイレギュラー業務が単純化・標準化され、誰でもその日から滞りなく業務を遂行することが出来るようになります。
その結果、熟練者が手間とコストを掛けていた作業が迅速に処理されることで労働時間を大幅削減、人力で行っていた確認作業やダブルチェックも不要となるため、残業時間の削減にも寄与します。各工程毎に作業効率を計測し、生産性を高められる箇所が残っていないかを細かくチェックし、コストを抑えられないか考えてみましょう。
課題4.在庫管理の複雑化
EC市場の拡大にともない、取り扱う商品の種類や販売形態が多様化し、在庫管理は従来よりもずっと複雑になっています。取扱可能な商品ラインアップの幅が年々広がっており、新しい品番そのものが増加していることに加え、各品番ごとにサイズ・カラー・セット内容・限定仕様などのバリエーションも細分化しています。
さらに、アパレル企業がコスメやライフスタイル雑貨まで取り扱うようになったり、雑貨ブランドが家具や家電を販売するなど、異なるカテゴリの商品を同一倉庫で管理するケースも増えています。
これにより、ひとつの倉庫内でサイズ・重量・形状の異なる商品を並行して扱うことが一般的になり、商品特性に応じた最適な保管方法を柔軟に組み合わせる必要が発生しています。大型商品はパレットや床置きで下段に配置し、軽量物は棚の上段に収めるなど、保管ロケーション設計そのものが多層化・複雑化しているのです。
次に、販売チャネルの拡大も在庫管理を複雑化させる要因の一つです。
自社ECサイトに加え、楽天・Amazon・Qoo10など複数モールでの販売を行う企業が増え、在庫をリアルタイムに一元管理する仕組みが求められています。
また、オムニチャネル化の進展により、店舗在庫とEC在庫を連携させて販売するケースも一般的になりました。たとえば、店頭で注文した商品を自宅へEC経由で配送したり、ECサイトで注文した商品を近隣店舗で受け取るといったように、在庫がオンラインとオフラインを横断して動く仕組みが増えています。
こうした運用に加えて、返品処理も在庫管理を複雑化させる大きな要因です。
ECでは返品の発生率が高く、返品のタイミングを事前に把握しづらいほか、返送された商品の状態も一定ではありません。開封済みや軽微な汚れ、パッケージの破損、タグが外れているなど、再販できるかどうかを判断するための検品工程が欠かせません。
このような在庫の横断や逆流が発生する環境では、引き当てや反映のタイミングが複雑になりやすく、在庫差異が生じやすいため、システムと現場オペレーションの両面で精密な制御が求められます。
在庫管理の複雑化の改善ポイント
在庫管理を安定させるうえで最も重要なのは、手入力などのアナログ対応をどれだけ減らせるかという点です。入荷・検品・出荷といった各工程で手書きや手入力が多いほど、作業者ごとの認識のずれや入力ミスが発生しやすく、それが在庫差異の原因となります。
特に、出荷ミスは在庫を狂わせる最大の要因のひとつです。誤出荷が発生すると、正しい商品の送り直しや回収対応だけでなく、その修正処理のためにシステム上の在庫データを手入力で直すなどのアナログ作業が必要となります。こうしたリカバリー対応は、現場と管理の両方に負担をかけるだけでなく、新たな入力ミスを生む温床にもなります。
そのため、ハンディ端末によるバーコード読み取りを徹底し、現場で人が判断・入力しない仕組みをつくることが、在庫精度を維持するための第一歩です。
また、倉庫管理システム(WMS)とカートシステム(楽天やAmazonなど)や受注管理システム(OMS)とのデータ連携も欠かせません。受注・実在庫・出荷データがリアルタイムで連携していれば、ECモールごとに在庫がずれることなく、一元的で正確な在庫管理が可能になります。
コスメや食品などの商材では、同じ商品でも製造ロットや消費期限が異なる在庫を正確に区別して管理することが重要です。
商品の入荷時にWMS上でロット番号や消費期限を商品データと紐づけて登録し、出荷時にはその情報をもとに“期限の早いものから優先して出荷する”仕組みを自動的に実行します。
これにより、人の判断を介さずに期限切れや出荷ミスを防ぐことができ、トレーサビリティを確保しながら、高い水準で在庫精度を維持することが可能になります。
さらに、EC物流においては、返品処理やオムニチャネル化も在庫管理を複雑化させる大きな要因です。伝票番号やバーコード情報から返品データを照合し、WMS上で迅速に特定できる仕組みを整えるほか、EC在庫と店舗在庫の区分移動をシンプルな操作で行える機能をWMSに組み込むことで、処理漏れや反映ミスを防ぎ、精緻な在庫管理を実現することが可能になります。
課題5.リードタイムの長期化
EC市場が拡大を続ける中で、多くの事業者が直面しているのが、リードタイムの長期化です。リードタイムとは、注文から商品が顧客の手元に届くまでにかかる日数や時間のことであり、その長さや安定性は顧客体験に直結します。
スピーディな配送が当たり前になった今、リードタイムが伸びるだけで購入意欲が削がれ、キャンセルや競合他社への流出を招くリスクも高まります。当日・翌日配送に慣れた消費者にとって、数日待たされるのは期待外れです。ECの価値である「欲しい時に届く」が損なわれれば、信頼を失い、リピート率の低下にもつながるでしょう。
さらに、ECモールでの販売においては、出荷スピードの遅れが検索結果に直結します。
たとえば楽天やAmazonでは、一定の出荷条件を満たさなければ、楽天であれば「優良配送」ラベル、Amazonであれば「マケプレプライム」などが付与されず、検索結果で上位に表示されにくくなります。
ましてや出荷遅延が発生すれば、店舗スコアや運営評価が下がり、モール内での検索順位や露出機会がさらに落ち込む恐れがあります。その結果、購買率やリピート率の低下にもつながりかねません。
また、化粧品ECでも多く利用されているQoo10では、「メガ割」などの大型セール期間中、購入から5営業日以内に出荷することが求められています。これを守れない場合、イベント参加資格の取り消しや「販売制限」をかけられるケースもあります。
ECにおいて、商品力や価格だけでは差別化が難しくなる中、物流スピードそのものが「選ばれる理由」となるケースが増えています。そんな中でリードタイムの長期化が続けば、顧客の信頼を失い、モール上での競争力も低下し、結果として利益の源泉であるリピーターやファンすら離れてしまうリスクを抱えることになります。
リードタイムの長期化の改善ポイント
こうしたリードタイムの課題に対しては、物流現場の一部だけを部分最適化するのではなく、全体最適の視点での見直しが欠かせません。
たとえば、
• 発注〜入荷〜出荷までの各工程をつなぐデータ連携
• 波動に備えた事前の仕分けやピッキング準備
• SKUごとの出荷頻度やサイズ・ロット特性を踏まえた保管ロケーションの最適化
• 同梱処理やラッピングといった付帯作業を含めたトータル設計
といった一連の流れを、倉庫管理システム(WMS)と物流現場が一体となって設計・運用することが求められます。
特にEC販売では、キャンペーンやセールなどで突発的な出荷増が起きるため、「繁忙期に即出荷できる体制」が組めるかどうかが、リードタイム圧縮の分かれ道になります。
そのためには、事前に販売計画や需要予測の情報を入手し、それに応じて人員配置や業務設計、システム設定を先回りして準備することが重要です。
たとえば、ユーザーからの注文内容に応じて集約ピック・マルチオーダーピックなど複数のピッキング方式を柔軟に切り替えられるWMS設計も、有効なアプローチのひとつです。
また、在庫の有無を瞬時に把握し、正しいロケーションから迷うことなくピッキングできる体制を維持することも、リードタイム短縮に欠かせません。
ロケーション・商品・数量の情報が正確に紐づいて管理されていることに加え、ロット情報や使用期限・賞味期限(期限管理)といった要素も適切に制御されているため、倉庫内の在庫状況を正確かつリアルタイムで把握できます。
その結果、「商品を探す」「商品を取り間違える」「間違えた商品を棚に戻す」といったムダな作業が発生せず、リードタイムの中でも特に出荷処理にかかる時間を大幅に削減できます。
まとめ
今回は、EC物流について、その特徴や仕組み、企業の抱える課題やその改善ポイントについて解説しました。EC物流では、EC事業の拡大が利益アップのみならず解決すべきコストや人手不足といった課題を生じさせます。最小限の人手で、コストの増加を防ぐための施策を現場に取り入れましょう。
また、ピッキングや倉庫管理などのヒューマンエラーにおいて、WMSなどのシステム導入が作業の効率化には適しています。人手不足やコスト増加の課題を解決するためにもシステム導入は第一の選択肢として検討しましょう。
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