WMS導入の失敗事例とは?現場を守る4つのポイント

「使いやすいシステムを開発します」。そう謳うシステム開発業者は数多く存在します。
しかしながら、半世紀以上ものあいだ、私たちが新規顧客のヒアリングを通じて見てきた現実は、それとはほど遠いものです。
「ECや販売先からの複雑な返品」「同梱物管理」「納品ルールの多様化」
こうした煩雑な物流の現場で「スムーズに機能しているWMS」は、ほとんど存在しないと言っても過言ではありません。
多くの企業が莫大な費用と時間をかけて基幹システムやWMSを導入したにもかかわらず、結果的に現場で使いにくく、混乱を招いたり、誤出荷や業務停止を引き起こしたりして、裁判にまで発展したケースも少なくありません。
たとえば2024年には、日本通運がアクセンチュアに対し124億円の損害賠償を請求。
江崎グリコでは、SAPへのシステム更改(主幹事:デロイト)が1年3ヶ月も遅延し、総費用は当初の215億円から342億円へと膨張。
それでもなお、出荷遅延という深刻な事態を招いています。
これは決して特殊な失敗例ではありません。
キューピー、大東建託、クボタなど、名だたる大企業でも導入失敗の事例は調べれば次々と見つかります。そしてこうしたトラブルが大手×大手(例えばアクセンチュア×日通、デロイト×グリコ)という“名門企業同士の組み合わせ”でも発生していることを考えれば、中小の企業同士によるシステム開発において、表に出ていない失敗がいかに多いかは想像に難くありません。
特に、WMSは、仕入・製造・販売・会計などの周辺システムすべてに連携する極めて“つながりの深い”システムです。
WMSの基礎知識・メリットデメリットはこちらで解説しています。
ここで開発に失敗すると、そのしわ寄せは物流現場に集中し、
生産や販売活動そのものが立ち行かなくなる可能性すらあります。
江崎グリコのように「出荷遅延から販売中止・生産停止」にまで追い込まれるリスクは、決して大企業だけの話ではないのです。
そこまで深刻でなくとも、次のような“見えにくい損失”は日常的に発生します。
・在庫が適正に把握できず、材料を過剰に仕入れてしまう
・倉庫に届いている新商品が迅速に棚入れできず、販売が遅れる
・返品された商品が棚入れされず、再販が遅れる
・新店舗で売れ筋商品が欠品しても、補充が間に合わない
こうした無駄と機会損失の積み重ねが、じわじわと事業の競争力を奪っていきます。
だからこそ、WMS導入時の開発業者選びは、絶対に失敗できない意思決定です。
本記事では、業者選定を100%成功させるために、私たちが現場で培った実践的な見極めの4つのポイントを余すことなくご紹介します。
①WMSを専門に扱っている会社であること

システム開発の現場では、前月まで会計システムや経費精算システムを作っていたエンジニアが、次はWMSの開発を担当するということが頻繁に起こっています。
会計システムや経費精算システムのように、「共通ルール(法令や会計基準)」に従って設計される業務システムでは、ある程度の汎用パッケージが通用します。
多くの場合、そのシステムに社内業務を合わせれば事足りると言っても過言ではありません。
しかしWMSの場合、
仕入、生産、販売、返品といった在庫を取り巻く業務は、業界ごと・業種ごと・企業ごとにルールも慣習も異なります。
たとえば──
・販売先ごとに異なる納品単位や梱包条件
・商品ごとに異なる保管・ピッキング・検品手順
・季節商材や福袋、キャンペーン品の特別フロー
こうした“企業固有の物流ルール”に対応するには、カスタマイズ前提の柔軟なWMS開発力が不可欠です。だからこそ、WMSに専門特化し、物流現場のノウハウを豊富に持つ会社でなければ、本当に使えるシステムは作れません。
一流のSIerや大手システム開発会社であっても、担当エンジニアが
会計システム、経費システム、勤怠管理システム、営業支援システムなど、多分野を横断している場合、物流特有のリアルや“現場感”を十分に理解していないことが多いのが実情です。
物流を知らない人が設計したWMSは、一見美しく見えるUIでも──
・ロケーション変更のステップが多くて面倒
・頻繁に使う機能なのに文字は小さいし深い階層にあって探しづらい
・一度登録すると現場で修正ができない
といった“現場では不便”な仕様になりがちです。
そしてこうした細部のズレが、やがて大きな混乱や誤出荷の原因になります。
だからこそ、物流に特化し、日常的にその現場と向き合っている専門企業に任せることが、成功の大前提となるのです。
②WMS導入において、豊富なカスタマイズ実績があるか

WMSを専門にしているだけでは、実は十分ではありません。
前述の通り、WMSは「100社100様」です。どれだけ優れたパッケージソフトでも、すべての企業の物流ニーズを満たせる“理想のWMS”を作ることはできません。
必要なのは、テンプレート的な開発ではなく、WMS導入時に多種多様な業種・業態の企業を相手に、個別のカスタマイズを積み重ねてきた経験です。
たとえば、同じ“子供服”を扱っていても、自社ECや楽天やAmazon中心で直販する小売型と、百貨店や専門店を通じて展開するメーカー型とでは、物流の要件はまったく異なります。販売戦略が違えば、在庫管理や出荷条件、返品処理なども当然変わります。
このような違いに柔軟に対応するには、業界や業種を横断して多数のWMSを手がけ、複雑なカスタマイズを日常的に行ってきた開発会社でなければ太刀打ちできません。
たとえば返品対応、セット商品の構成管理、福袋の仕分け、オムニチャネル対応、ロット管理、卸とECでの在庫区分、欠品防止のアラート機能など──
日々多様な企業の要求に応えてきた会社には、こうした細かな物流設計に対するノウハウが蓄積されており、御社固有の課題にフィットするWMSの仕様を提案する力があるのです。
さらに、コスメ業界のように一見“専門性が必要”に見える分野でも、他業界で培ったWMS設計の経験が活かされ、現場にフィットする提案につながることがあります。
アパレル、雑貨、医療機器など、異なる業界で培われた物流の工夫が、仕入・在庫・出荷といった共通の構造を通じて応用可能だからです。
つまり、「コスメしか知らない会社」より、「コスメも含めて多様な業種を扱っている会社」のほうが、より広く深い提案ができる可能性が高いということです。
過去の失敗や試行錯誤も蓄積されている分、選択肢も判断基準も圧倒的に豊富です。
そして何より、WMSは“導入したら終わり”ではありません。
新商品の追加、チャネルの拡張、取引先ごとの運用ルールの違いなど、物流現場は常に変化にさらされています。それに追随するためには、初期構築だけでなく、導入後も継続的に仕様変更や拡張に対応できる体制が不可欠です。
多様な業種に対応し続けてきた開発会社は、そのぶん多くの変化に付き合ってきた会社でもあります。
だからこそ、「変化に強い=進化し続けられるWMS」を構築する力があるのです。
変わり続ける現場に、進化し続けられるシステムを。
それを実現できるかどうかは、“どれだけ多様な現場を見てきたか”という、開発会社の“引き出しの数”にかかっています。
③WMSを開発するエンジニアが物流現場に頻繁に足を運んでいるか

どれだけ機能が豊富でも、現場で使いづらければ意味がありません。
そして、「本当に使いやすいWMSかどうか」は、現場に足を運んだエンジニアにしかわからないのです。
物流業務は座学だけでは理解しきれません。
出荷前の検品手順、ラベル貼付の動線、重量や形状による作業者の負荷、ハンディ端末の操作しやすさ——
現場に立たなければ見えない“細かいリアル”がWMS導入後の使いやすさを決定づけます。
たとえば次のような例は、現場を知らない設計者が生んだ典型です。
・端末の画面の文字が小さすぎて、操作ミスが頻発
・一度登録した情報が編集できず、再入力が必要になる
・処理ステップが多く、作業者が混乱する
・ラベルプリンターの印刷速度が遅く、手待ちが発生している
こうした小さな“現場のストレス”が積み重なると、やがて誤出荷や作業遅延、最悪の場合は出荷業務が完全にストップしてしまう恐れがあります。
だからこそ、エンジニア自身が現場に足を運び、WMSを実際に使いながら課題を感じ取る姿勢が欠かせません。
「使いやすいシステムは、パートスタッフが無意識に晩ご飯の献立を考えてしまってもミスしない」そんなシビアな現場基準でシステムを作れるエンジニアがいるかどうかが、WMS導入の成功を左右します。
④WMS導入後も、開発エンジニアと直接コミュニケーションが取れるか

WMSの開発において、「エンジニアと直接会話できるかどうか」は、実は最重要ポイントの一つです。
なぜならWMSは、取引先ごとの条件(納品ルール、伝票の要・不要、配送便指定など)、商品やセールに関する例外処理(カテゴリ別の保管方法、セール品の特別処理、返品可否の区分など)、データ連携の仕様(基幹システム、モール、外部倉庫との連携形式、CSVやAPIの出力条件)など、多方面にまたがる細かい設定が絡み合うため、
仕様の聞き間違いやすれ違いがシステムトラブルの温床になります。
こうした調整を営業やディレクターを挟んで伝えていては、
仕様の聞き間違いやニュアンスの取り違え、確認漏れといったエラーが発生しやすくなります。
たとえば、
・出荷ステータスAとBでCSVのフラグ仕様が異なるが、その説明が抜けていた
・セール商品だけ伝票出力形式を変える必要があったが伝わっていなかった
・外部モールとのAPI連携において、納品先独自の制約条件が考慮されていなかった
こうしたトラブルの多くは、開発エンジニアと直接10分話していれば未然に防げたというケースばかりです。
WMSは、単純な“要件定義→実装”では完結しません。
「こういうパターンもありますか?」「例外処理はどうしますか?」といったやり取りを重ねながら、潜在的なリスクを洗い出し、落とし所を見つけていく“すり合わせ型”の開発が求められます。
このプロセスを伝言ゲームのような体制で進めていては、スピードも精度も大きく損なわれてしまいます。
だからこそ、物流現場を理解している開発エンジニアが直接同席し、その場で仕様の確認や調整ができる体制が必要不可欠なのです。
それが、導入後のトラブルを最小限に抑え、変化にも柔軟に対応できる“強くしなやかなWMS”を生み出す最大の要因になります。
<結論>WMSは、「作って終わり」のシステムではない
WMSは、ただ「作って終わり」のシステムではありません。
導入後にいかに柔軟に進化し、現場とともに成長し続けられるか—
それによって、生産や販売のスピード、在庫の精度、業務の安定性、そして何より会社全体の競争力そのものが左右されます。
物流が正確かつスムーズに機能すれば、販売施策や仕入戦略も臨機応変に展開でき、事業の打ち手に“スピード”と“柔軟性”が生まれます。
それは、結果として売上や利益の最大化につながる、経営基盤そのものの強化へと直結します。
つまり、WMSの業者選びとは、
物流現場の最適化だけでなく、販売・仕入れ・経営判断にまで波及する“全体最適”を誰と実現するかを決めることに他なりません。
そのために、最低限チェックすべき4つの視点があります。
・WMS専門のシステム開発を手がけているか
・業種・業態を問わず、多様なカスタマイズ実績があるか
・開発エンジニアが物流現場に足を運び、リアルを理解しているか
・そのエンジニアと、直接やり取りできる体制があるか
「失敗したらやり直せばいい」では済まないのが、WMSの世界です。
だからこそ、最初の選択が、将来の柔軟性と収益性を決定づけます。
もし今、業者選定で迷われているなら、
御社の物流を本質から理解し、導入後も一緒に改善を続けられる“現場視点のあるWMS専門の開発会社”と話してみてください。
それが、現場に強く、経営に貢献できるWMSを実現する第一歩となるはずです。