見学用倉庫と借り物システムでは見抜けない
――物流委託で失敗しない3つの本質チェック

楽天やAmazonなどでEC通販を展開していると、避けて通れないのが「細やかな物流対応」です。最初は社内でまかなえていた企業様でも、注文数の増加や返品・交換対応、チラシやノベルティといった同梱物管理、さらに楽天スーパーセールのような繁忙期対応など、気づけば物流業務に追われてしまう――そんなお話をよく伺います。
こうしたタイミングで物流をアウトソーシングしようと考えた際、多くの方が悩まれるのが「どこに依頼すべきか?」という点です。
選択肢は多くあれど、物流倉庫の良し悪しは外からでは判断がつきにくいもの。
では、どうすれば失敗しない倉庫選びができるのでしょうか?
洋服なら試着でき、食べ物なら試食すれば確認できます。
しかし、物流倉庫のようなインフラは一度荷物を預けてしまえば簡単に引っ越しできません。「仕入先や販売先への連絡」「基幹システムとの連携変更」「社内オペレーションの再構築」など、切り替えには多大なコストと時間がかかります。
だからこそ、物流倉庫の選定は「最初から失敗しないこと」が極めて重要です。
本記事では、倉庫選びで失敗しないために“これだけは見ておくべき”3つの視点をご紹介します。
①見せてくれる倉庫ではなく、見せてほしい倉庫を伝えよ!
倉庫見学を受け入れている企業は少なくありませんが、注意が必要です。
多くの場合、案内されるのは「見学用に整えられた拠点」であることが多く、実際のオペレーションとはかけ離れているケースがあります。
たとえば――
・通路やパレットが一時的に整頓されている
・スタッフのふるまいがマニュアル通りで“演技”っぽい
・一部エリアしか見せてもらえない
こうした“お化粧済み”の現場では、日常の実態を見抜くのは困難です。
本当に確認すべきなのは、見学用ではない拠点を自社で指定し、希望のタイミングで訪問することです。
たとえば近日中に急きょ訪問したにもかかわらず、
・通路や荷物が整然と管理されている
・現場に清潔感と適度な緊張感がある
・作業が滞りなく進んでいる
といった状態であれば、その物流倉庫で失敗することはほぼ100%ないでしょう。
加えて、こうした訪問依頼に対する営業担当の反応も重要です。
すぐに「問題ありません」と言えるのか、何かと理由をつけて日程を引き延ばすのか、断るのか。倉庫の“透明性”が試される瞬間でもあります。
②倉庫見学に行って、具体的に行う2つのポイント

雑に置かれたパレットは仕事の雑さ映す鏡
1つ目は清掃や整理整頓が行き届いているかを確認することです。
・パレットの向きは揃っているか
・通路は確保されているか
・床に商品が放置されていないか
こうした点は単なる見た目の問題ではなく、現場のルールやオペレーションの徹底度合いを示しています。一度のズレを許せば、それが“当たり前”になり、やがて大きな混乱を生み出します。整理整頓は、物流品質を支える最も基本であり、最も重要な要素です。

営業が語る理想より、パートが語る現実を聞け
2つ目は現場で働いているパートスタッフさんに「所定のロケーションに行って商品がなかったことがあるか」を確認することです。
ポイントは案内をしてくれる営業マンや役職者ではなく、現場で作業しているパートスタッフさんに聞くことです。実際に手を動かす人の声にこそ、倉庫の“リアル”が現れます。
もし、「探すという行為は日常的にあります」と言われたら危険信号です。
一見すると些細な問題に思えるかもしれませんが、決められたロケーションにモノがないということは、在庫管理が精緻に行われていないということに他なりません。
広い倉庫内で商品を探すことになれば、余計な作業コストがかかるだけでなく、本来あるはずの商品が見つからないという事態にもつながります。結果として、在庫がどこかにあるはずなのに出荷できず、販売機会の損失(売り逃し)が発生します。
さらに、在庫データが正確でなければ、実際にはある商品を“ない”と判断して無駄な仕入れをしてしまうリスクも起こりえます。
とくに売れ筋商品であれば、ECで注文が入ったのに「倉庫内に在庫が見つからず、出荷できない」――そんな事態になれば、欠品によるキャンセルやユーザーからのクレームにもつながりかねません。
想像してみてください。商品は売れたのに、見つからないがゆえに届けられない。
その影響が売上だけでなく、企業の信頼そのものを揺るがすことになるのです。
ましてや、細かい返品管理や賞味期限やロット管理といった機動的な物流オペレーションを期待することは間違いなくできないでしょう。
つまり、「決められたロケーションに商品がない」という現象は、物流現場に潜む課題の兆候を見抜くための、非常に重要なチェックポイントです。
③物流に特化したシステムエンジニアが倉庫の命運を握る

会計システムや経費システムのようなものであれば、ある程度どの企業も同じようルールに基づいているため、標準的な仕組みで問題ありません。しかしながら、物流というのはまさに100社あれば100パターンのやり方が存在します。
業種・業態に加えて、原料の調達手段、生産管理の方法、取扱い商材、販売チャネルによって、物流の運用は千差万別です。
そのため、各企業の製造・仕入・販売・システムといった全体の流れを踏まえたうえで、最適な物流システムをカスタマイズして構築する必要があります。
そしてこの“全体最適のシステム”を実現するには、要件定義から開発までを一貫して担えるエンジニアが倉庫会社内にいるかどうかが非常に重要です。
多くの物流会社は「自社システムを保有している」と謳っていますが、実際は外部のシステム会社に構築を委託しているケースが大部分です。
このような場合、カスタマイズや仕様変更のたびにシステム会社を介す必要があり、コストも時間も余分にかかってしまいます。
さらに問題なのは、一般的なシステム会社は物流に特化していないことです。
開発担当のエンジニアがWMS(物流システム)に携わるのは一時的で、プロジェクト終了後は勤怠管理や会計、営業支援など、まったく別の業務アプリ開発へと移っていきます。結果として、物流特有の現場感覚や業務上の“暗黙知”が積み重ならず、本質的に使いやすい物流システムが構築すること自体が構造として難しいのです。
倉庫会社に“物流現場を熟知した、毎日WMSのことだけを考えている”SE(システムエンジニア)が在籍していれば、開発時に不要な伝言ゲームが生じることもなく、現場の変化や課題に即した柔軟な対応が可能となります。
結果として、コストや時間を抑えながら、実用的で品質の高い物流システムを構築することができるのです。
<結論>売上と利益を最大化するカギは、“倉庫選びで失敗しないこと”

EC事業において物流は、単なる「出荷のための裏方作業」ではありません。
返品対応、同梱物の仕分け、繁忙期の変動対応、正確な在庫管理――そのすべてが顧客体験の最前線を支えています。そして、それを外部に委ねるということは、言い換えれば「自社のブランド価値」を託すということでもあります。
だからこそ、物流倉庫の選定においては
“最初から失敗しない”という視点が絶対に必要です。
・見学用に整えられた倉庫ではなく、“すっぴん”の現場を見る
・スタッフの所作や在庫精度といった日常運用に踏み込んで確認する
・システム対応力や柔軟性に直結する、物流SEの有無を見極める
この3つの視点を持って選定すれば、見た目や価格だけでは判断できない「本当に信頼できる物流パートナー」に出会える確率が格段に高まります。
物流は、変化と成長を続けるEC事業において、最も地味でありながら、最もボトルネックになりやすい領域です。そこを妥協すれば、どんなに魅力的な商品や施策も、最後の“届ける”という段階でつまずいてしまうかもしれません。
物流で悩む時間を減らし、売上と利益を最大化するためのコア業務(販売戦略や顧客体験の改善)に集中できる体制を整える。
そのための第一歩が、「倉庫選びで失敗しない」ことなのです。